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   政治・経済のモデルチェンジへ
   ーー日本の政治・経済の現状と今後の展望

日時:2019年8月24日(土)午後3時~午後6時
会場:高槻南スクエア(阪急高槻駅南すぐ)
参加費:500円
参考図書:金子勝『平成経済 衰退の本質』
話題提供・主催者より 

 政・官・財が一体となった「無責任の体系」による失敗例として、事業会社史上最悪の破綻に至った日本航空の事例があげられるだろう。〈官〉による甘い事業査定に基づいた地方空港の増設認可、〈族議員〉による不採算路線の拡充、政・官の意向に不本意ながらも黙従する経営者、彼らが一体となって問題を先送りした結果、日航は最終的に2兆3千億の巨額負債が積み上がって破綻に至ったのである。破綻処理によって消失した費用は、メガバンク産業再生機構の巨額債権放棄であったから、結局のところ、わたしたち国民が負担したのだ。
 アベノミクスによる「成長戦略」が平成経済衰退の反省を踏まえているとは到底考えられない。例えば、リニア新幹線事業はどうだろうか。オリンピックの例を見ても、こうした巨大事業は進展過程で費用が大きく膨らんでいくのが常である(意図的に当初予算を低く見積もっているのだろう)。事業費用全額をJR負担でおこなうとしていたはずが、兆単位の政府支援が必要だとの話を聞く。そもそも、巨額の費用をかけて、この狭い国土に、環境破壊をともなう超高速鉄道事業を実施する意義があるのだろうか?
 参議院選挙は史上2番目の低投票率で終わり、金子勝氏が指摘する「諦めとニヒリズムというマイナスの感情」が露呈する現象を示した。いっぽう、れいわ新選組の台頭に見られる新しい動きが出現しつつあることも見逃せない。
 政治・経済のモデルチェンジの方向を語り合うよい機会にしたいと思います。

【参考図書の書評、6月15日付け朝日新聞
 どのように政府が粉飾しようとも、日本経済は、平成30年の間に明らかに衰退を遂げた。なぜこうなってしまったのか。
 著者は、世界的な資本主義の変質から説き起こし、金融自由化とグローバリゼーションの中で新自由主義が浮上してきた流れを論じる。その中で日本は、バブル経済崩壊後の不良債権や経営破綻、そして原発事故の処理において、経営者も監督官庁も責任逃れと失敗のごまかしを繰り返してきた。「構造改革」と規制緩和は、新産業の創出をもた
らさず、逆に社会保障と地域財政に打撃を与えた。皮肉にも、過去からの日本の「無責任の体系」(トップが責任をとらないこと)が、市場と一般市民の自己責任を重視する新自由主義と共振してしまったのである。
 失敗の集大成とも言うべきものがアベノミクスである。日銀の超低金利政策と国債・株式の大量購入は、〈出口のないねずみ講〉と化している。オリンピックや万博などのイベント誘致は、古い産業と「ゾンビ企業」を延命させ、産業の新陳代謝をむしろ遅れさせている。有効な処方箋を打ち出せてこなかった経済学の現状に対しても、著者は厳
しい批判を投げかける。
 格差拡大に不満を募らせる各国の国民は、トランプを典型とするポピュリズム政治を生み出したが、これについても日本は特殊である。著者曰わく、演説や答弁の能力が低い安倍晋三首相は、成果の出ない見せかけのスローガンだけを次々に掲げ、国民の中に無力感とニヒリズムを浸透させるという黙従型のポピュリズムを作り出している。
 本書の分析は読者を暗澹とさせるだろう。しかし著者は、日本の現状から脱却するための具体的な提案を終章で示している。そこから先を引き受けるべきは幅広い国民である。「われわれに残さた時間は多くない」と著者は締めくくる。平成は終わった。しかしその負の遺産が、私たちの肩に重くのしかかっている。
 (評 本田由紀東京大学教授・社会教育学)