書評の紹介

 書評紹介・朝日新聞6月15日朝刊より。
 金子勝の近著、『平成経済 衰退の本質』(19年4月・岩波新書

 どのように政府が粉飾しようとも、日本経済は、平成30年の間に明らかに衰退を遂げた。なぜこうなってしまったのか。
 著者は、世界的な資本主義の変質から説き起こし、金融自由化とグローバリゼーションの中で新自由主義が浮上してきた流れを論じる。その中で日本は、バブル経済崩壊後の不良債権や経営破綻、そして原発事故の処理において、経営者も監督官庁も責任逃れと失敗のごまかしを繰り返してきた。「構造改革」と規制緩和は、新産業の創出をもたらさず、逆に社会保障と地域財政に打撃を与えた。皮肉にも、過去からの日本の「無責任の体系」(トップが責任をとらないこと)が、市場と一般市民の自己責任を重視する新自由主義と共振してしまったのである。
 失敗の集大成とも言うべきものがアベノミクスである。日銀の超低金利政策と国債・株式の大量購入は、〈出口のないねずみ講〉と化している。オリンピックや万博などのイベント誘致は、古い産業と「ゾンビ企業」を延命させ、産業の新陳代謝をむしろ遅れさせている。有効な処方箋を打ち出せてこなかった経済学の現状に対しても、著者は厳しい批判を投げかける。
 格差拡大に不満を募らせる各国の国民は、トランプを典型とするポピュリズム政治を生み出したが、これについても日本は特殊である。著者曰わく、演説や答弁の能力が低い安倍晋三首相は、成果の出ない見せかけのスローガンだけを次々に掲げ、国民の中に無力感とニヒリズムを浸透させるという黙従型のポピュリズムを作り出している。
 本書の分析は読者を暗澹とさせるだろう。しかし著者は、日本の現状から脱却するための具体的な提案を終章で示している。そこから先を引き受けるべきは幅広い国民である。「われわれに残さた時間は多くない」と著者は締めくくる。平成は終わった。しかしその負の遺産が、私たちの肩に重くのしかかっている。
 (評 本田由紀東京大学教授・社会教育学)