MMT(現代金融理論)を考える
http://blog.livedoor.jp/columnistseiji/archives/51778634.html
2019年08月31日 小笠原誠治の経済ニュースゼミ

 

 MMTというのが流行っているというか、関心を集めているというか…
 どう思います?
 わたしゃ、この手の理論というのが大嫌い!
 バカバカしいったらありゃしない。
 でも、結構MMTに魅かれる人たちがいるようなのです。
 じゃあ、何故MMTを支持する人がいるのか?
 難しい理論をちゃんと理解しているのか?
 そんなことはないのです。

 MMTを支持する人々は、それによって財政出動が可能になり、従って、それによって貧しい人々の暮らしが向上するのではないかと期待するからなのです。
 財政再建を重視すると、常に支出には厳しい制約がかかってしまう。
 しかし、財政破綻などあり得ない、或いは、どれだけ財政出動をしてもインフレが起きないとなれば、何故財政出動をしないのか、となる。
 そういうことなのです。

 では、財政破綻は本当に起きないのか?
 そう簡単に財政破綻が起きるとは思われませんが、絶対に起きないとも言えないのは事実です。
 自国通貨を発行している国では、政府がどれだけでもお札を刷ることができるので、財政破綻しないと言っていますが…
 確かにどれだけでもお札を刷ることができるでしょうが…
 その受け取りを国民が拒否すれば…いや、国民がそれを受け取ったとしても、お札を刷れば刷るほど価値が落ちるのは当然。つまり、インフレになる、と。
 そうすると、財政破綻したも同然。
 それでも財政破綻はしていないというのは、年金の支給額が月に10円になっても年金制度は破綻してないと主張するのと同じ。
 しかし、実際にはなかなかインフレが起きないので、ひょっとしたらインフレはもはや起きないと思いたいのかもしれません。
 そして、インフレが起きないのであれば、どれだけお札を刷っても構わないではないか、との結論に至る、と。
 そういうことなのです。
 しかし、インフレが起きないとは誰も断言できないのです。
 というか、年金の支給額を倍増し、そして、予算は大盤振る舞い、消費税も所得税法人税も大幅に減税するようなことにすれば、流石にインフレは起きるでしょう。だって、働かなくても幾らでも年金がもらえ、しかも、その額がどーんと増える訳ですから、真面目に働く人が少なくなり、人々が生産するモノやサービスが急減してしまうからです。
 ところで、先進国の人々は大切なことに気が付いていません。というか、自分たちにとって不都合な事実は見て見ぬ振りをしたい、と。
 アメリカでトランプの人気が出た理由は、仕事を失ったような労働者たちに甘い言葉を投げかけたからです。米国の労働者が失業に追い込まれたのは、メキシコからやってきた不法移民のせいだ。そして、米国に輸出攻勢をかける中国のせいだ、と。
 日本でも、失われた10年とか20年と言われた時代を経験してきました。賃金が上がらないどころか下がってしまった、と。
 そうした不満を代弁するかのように、アベシンゾウがインフレ目標を日銀に掲げさせ、リフレ政策を実行した訳なのです。
 しかし、ご承知のようにリフレ政策は失敗。賃金は相変わらずなかなか上がらない、と。

 しかし、では、何故賃金がなかなか上がらないのか?
 賃金が上がれば、労働者たちの消費が盛んになり、景気回復の好循環が生まれる筈だと主張する人々がいます。
 貴方もその一人?
 確かに、賃金が上がれば、景気回復の好循環が生まれるでしょう。
 しかし、実際にはなかなか上がらない。
 では、何故賃金が上がらないのか?
 経営者たちが冷徹だから?
 自民党が経営者の立場に立っているから?
 それもあるでしょうが、そこには構造問題があるのです。
 一物一価の法則をご存知だと思います。
 モノやサービスの価格は、本来であれば、一定の価格に収れんする傾向がある、と。

 実際には違いますよね?
 私が住んでいる田舎の町にあるスーパーやドラッグストアなどで買うパンやウイスキーの価格でも2割位違うことがあります。
 具体的に言えば、山崎パンのピーナッツバターのパンに、バランタインウイスキー。従って、一物一価は法則は成立しないと言えないこともない。
 しかし、そうはいっても、今言ったパンやウイスキーの価格が2倍や3倍も違うことはあり得ないでしょう。流石にそうなると、どんなにぼんやりした消費者でも価格の違いに気が付き、反応を示す筈だ、と。

 私が言いたいのは、世界の労働者の労働力に対して支払われる対価も一定の価格に収束する傾向があるということなのです。つまり、世界の労働者の賃金格差は縮小する傾向にある、と。
 貧富の差は拡大しつつも、労働者たちの賃金格差は世界的に縮小しつつある、と。ということは、かつては大変貧しかった中国の労働者も今は相当程度の生活を享受することができるようになり、逆にかつては大変豊かだった米国の労働者たちも今は安い賃金に甘んじざるを得なくなっている、と。だから、日本の労働者の賃金がなかなか上がらないのです。

 経営者の立場からすれば…或いは株主の立場からすれば、安い労働力が利用可能ならそれを利用しようということで海外進出が進み、日本の労働者の賃金には下押し圧力がかかり続けている、と。
 結局、そのことに気が付かない人々が余りにも多い!

 いや、薄々気が付いているのかもしれないが、そういった事実は見逃したい、と。
 では、どうするか?そこでMMTの登場となるのです。
 何か自分たちを救ってくれる高邁な経済学の教えが隠されているのではないか、と。しかし、MMTに頼って放漫財政に走り、本当に財政や経済が破綻したら元も子もなくなってしまいます。だから、私は、プライマリーバランスを黒字化する程度の財政再建努力が必要だと言っているのです。

 1000兆円の政府の借金を返済しろと言っている訳ではなく、その借金残高が実質的に増えない程度の努力は必要だということです。
 私の主張をお読みになって、では、どうすればいいのだ、それをお前は示していないと仰りたい方がいるかと思います。

 確かに、本稿では解決策を示していません。
 しかし、私は長い間、その答えを何度か示しています。その答えとは、日本人の、或いは日本企業の有効供給能力を上げるしかない、と。
 簡単に言えば、労働力の質の向上と、企業としての競争力の向上です。
 そうすれば自ずから賃金は上がります。


日米韓戦後同盟の終了

先日の読書会で一部話題になりました日韓関係の問題で、明快な解説に出会いましたので下記に記事を引用させてもらいます。

 なお、文在寅についてお知りになりたい方は彼が大統領になる前に書いた自伝『運命』が参考になります。また映画ですが、弁護士時代の同僚で大統領だった盧武鉉をモデルにした『弁護人』も参考になります。韓国の民主主義運動の最先端を走ってきた2人が共に大統領になっている韓国。盧武鉉は非業の死を遂げていますが。文在寅政権は革命政権です。下記の古谷有希子氏が指摘しているように、日本で言えば大日本帝国憲法を否定して成立した日本国憲法体制になったようなものです。安倍政権はこの逆を目指しているわけですからぶつからないわけはありません。

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(1)日韓関係の悪化は長期的には日本の敗北で終わる
https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyayukiko/20190817-00138706/
古谷有希子

韓国はなぜ対日関係を悪化させるようなことをするのか?
8月15日は日本では終戦忌念日として認識されているが、韓国では光復節、つまり独立記念日である。韓国のアイドルグループBTSのメンバーが身に着けていた光復節記念のTシャツに原爆のイメージがプリントされていたことが日本で物議を醸したのは記憶に新しい。

韓国の人々にとって、日本による植民地支配というのは「歴史」ではなく、今も続く忌まわしい記憶であり、いつかまた起こるかもしれない可能性の問題でもある。

いつかまた同じ屈辱を味わう羽目にならないように、過去を記憶し続け、警戒し続け、少しでも問題があると考えれば早めにその芽を潰しておく、それが韓国の人々の大日本帝国による植民地支配への基本的な態度である。

日本では韓国の人々のそうした態度や社会的雰囲気は、民族主義を押し出した国ぐるみの反日教育によってなされていると考えがちだが、そもそもこうした歴史観は政府主導で生み出されたものではない。

日本で「反日」と考えられている親日清算問題は、80年代以降の軍事独裁の終焉、民主主義運動、民主主義社会の醸成によって、民衆やリベラル知識人たちが真実を求める声として強まったものである。

彼らは、独裁政権が「親日派」「親日行為」の問題を明らかにせず、日本に対する十分な責任追及をすることなく、国民に真実を隠した状態で植民地問題を「金で解決」したことそのものを、問題視してきた。

民主化以降、韓国ではNGONPOによる草の根市民運動が盛んになり、市民社会の発展が目覚ましい。市民社会の発展は、人権、個人の権利、女性の権利などに対する意識の高まりをもたらした。

こうした市民運動の広がりは、韓国社会における植民地支配の再認識にも寄与した。

一般市民に隠匿されていた歴史の真実を求めるとともに、植民地支配当時は強く認識されることの無かった事象を、ポストコロニアルな視点から再発見し「過去清算」する意識が韓国社会に根付いていった。

そして、人権の回復、履行を求めて、国内外の政府、企業、団体を相手取った裁判が頻繁に起こるようになった。

民主化の流れを汲んで「過去清算」を希求する新たな歴史認識の台頭は、植民地支配について「日本が悪かった」といった単純な理解から脱却し、なぜ植民地支配が起こったのか、植民地支配とはどのようなものだったのかを、政治・経済・社会・文化など様々な側面から分析し、過去を断ち切り、民主社会韓国として新たな時代を迎えようという動きでもあった。

端的に言って、韓国の人々にとって、民主化前と後では国家自体が全く異なる存在なのである。

それは多くの日本人が、大日本帝国と戦後の日本を全く異なる存在として認識している感覚とも似ている。あるいは、徳川幕府下の日本と明治以降の日本くらい違うと言ってもいいかもしれない。

このことを理解していれば、なぜ現在の韓国政府が日韓基本条約締結以降、日韓政府の間の共通認識となってきた請求権協定に対して、それを覆すような態度を取るようになったのかも理解しやすい。

喩えるなら、日米修好通商条約が現在のアメリカと日本の間では全く無効であるのと似たようなものである。

国民によって選ばれ、国民を代表する政府が取り交わした条約でないものが、現在の民主国家としての韓国の人々にとって受け入れられないのも、感情としては当然といえるだろう。

さらに、民主化によって新たな権利意識を持ち、植民地支配についてもより構造的な問題を扱うようになった韓国社会が、軍事独裁下で国民の多くに真実を隠す形で締結された条約に違和感を持つのも自然ななりゆきである。

そして、民主主義国家である以上、社会・市民の変化が司法・行政・立法府に反映されるのも当然である。

民主化運動を経て、民主主義に基づいた市民社会への歩みを進めたことで、歴史問題に対して歴史修正主義的態度を改めてこなかった日本に具体的な変化を求めるようになった結果、日本側から見れば「対日関係を悪化させる態度」を取るようになったのである。

韓国はなぜ今になって強気に出ているのか?
一方、韓国の民主化は1980年代になされたもので、韓国政府の態度の変化によって2000年代後半から日韓関係が大きく変化するまでに20年もの時間が空いている。

それまでも歴史問題で軋轢のあった日韓両国だが、それが両国関係に深刻な影響を与えるようになったのは2000年代に入ってからである。

具体的には、韓国政府が個人請求権は消滅していないとの認識を示すようになったのが、2005年の廬武鉉政権下であった。

韓国の態度の変化には、前述した韓国社会の民主化のほかに、1)日本の重要性の低下、2)日本の政府要人の度重なる歴史修正主義的発言・態度、という二つの側面が影響している。

民主化以降の20年の間に、韓国の国際競争力の上昇と日本の国際競争力の低下、そして韓国にとっての日本の相対的重要性が低下した。

植民地下の朝鮮が日本経済と強く結びつき、解放後もその影響が強く残っていたのは当然のことだが、朝鮮戦争の停戦、日本との国交回復を経て、60年代から70年代の韓国にとって、日本は貿易対象国としても、また国家の発展モデルとしても重要な存在であった。

だが、韓国にとっての日本の重要性は時を経て徐々に下がっていく。

1960年の貿易対象国の中では、日本は輸出の約6割を占めていたが、1975年には25%、1985年には15%、そして2005年には8%にまで下がっている。

また、輸入においても日本は1960年には21%、その後70年代は30%を維持するも、80年代から90年代までに20%台に下がり、2005年には19%を切っている。(出典:吉岡英美(日韓経済関係の新展開ー2000年代の構造変化を中心に(韓国語)))

また、韓国に対する外国人投資の推移においても、70年をピークに日本人(日本法人)による投資は徐々に下がり続けている。(同上)

2000年代以降は貿易相手国として中国の台頭が目覚ましく、日本の存在感はますます霞んでいった。

日本の経済的重要性が低下しても、日本の政治家は一貫して歴史修正主義的な発言を繰り返してきた。

侵略と植民地支配を肯定し、戦犯のまつられる靖国神社に参拝し、従軍慰安婦被害者を侮辱し、サンフランシスコ講和条約以降の国際秩序の土台を揺るがすような発言を平然と口にする政府要人が後を絶たない。

いくら公式談話で謝罪を口にしても、いくら補償・賠償として金銭を提供しても、こうした発言・態度を示す政府要人(首相含め)が罰されることもない日本を信用しろと、被害国であり、被害者が生存している韓国に求める方が無理な話である。

教科書問題、靖国参拝問題など、日本の政治家によって繰り返される歴史修正的な発言や態度について、当時の廬武鉉大統領は強い批判を行った。

また、従軍慰安婦問題や徴用工問題などの植民地支配における問題については、人権派弁護士、草の根市民運動のバックグラウンドを持つがゆえに、人権問題としての側面からのアプローチに大きく舵を切った。

現在の文在寅大統領も民主化運動、人権運動をバックグラウンドとする運動家であり、廬武鉉元大統領の側近であった。廬武鉉元大統領と同様に、人権派弁護士、民主化運動家として従軍慰安婦問題や徴用工問題を取り扱おうとしていることは明白である。

しかも、歴史問題で日本との軋轢を避けるために司法に不当な介入をしたとされる朴槿恵前大統領、さらにその前の李明博元大統領と、いずれも不正によって逮捕された保守・右派の大統領の次を担うリベラル・左派大統領として、市民の期待も大きい。

人権派弁護士、市民運動家というバックグラウンドを持ち、それを前面に押し出してリベラル・左派大統領として選ばれた以上、人権問題としての従軍慰安婦問題や徴用工問題において「正しい発言」「正しい態度」を取らないわけにはいかない。

しかも、三権分立の制度下において、司法の決定を行政が覆すことは不可能である。

司法が個人請求権を認めた以上、政府はその決定に従うほかない。

日本の政府要人が繰り返す歴史修正主義的発言の裏にあるのは植民地主義的差別心
戦後、日本の政府要人は歴史修正主義的発言や態度を繰り返してきた。

韓国はそのたびに反発してきたが、2000年代以降韓国が日本に対して強気な態度を取る後押しとなっているのは明らかに、韓国にとっての日本の重要性が低下したこと、韓国自体が日本の競争相手として台頭してきたこと(もはや一人当たりGDPは3000ドル程度の僅差に迫っている)、またソフトパワーにおいては日本をしのぐ世界的な存在感を示し始めていることなどが挙げられる。

日本政府はこの問題については静観しつつ、政府要人が歴史修正主義的発言や態度を行って韓国をこれ以上刺激しないように注意深く静観し続けるのが正解だったのではないだろうか。

だが、繰り返される日本の政治家の歴史修正主義的発言の裏には、結局のところ植民地主義丸出しの韓国・朝鮮(韓国人・朝鮮人)に対する差別意識がある。

「韓国ごとき」「日本より格下」といった意識があるからこそ、対等な相手として、無用に刺激してはならない相手としてではなく「馬鹿にしていい相手」「何してもやり返せない相手」として扱い続けてきたのである。

その認識を改めない限り、日本はいつまでも韓国を相手に歴史問題で先に進むことができない。

時代は移り、世界の中での韓国の地位が上がる一方で日本の地位が下がり、両国は対等に向き合うべき相手となった。

たとえ貿易戦争で一時的に国民をスカッとさせるような結果を得ても、歴史修正主義に立った「歴史戦」は日本の外から見れば明らかに日本の劣勢であり、長期的に見れば勝ち目のない戦いである。

韓国側に何も問題が無いとは言わないが、国民をスカッとさせるのが外交政策としてまかり通るなら、それは民族主義に踊らされたポピュリズムにすぎない。


(2)GSOMIA終了:韓国における日米韓安保体制の価値の低下

古谷有希子
https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyayukiko/20190826-00139787/

 

前回の記事に続く形でこの記事を執筆していたのだが、韓国がGSOMIA終了を発表したので、韓国に関する考察よりも日米韓関係に関する考察を中心に論じる。

前回の記事では、韓国が日本への態度を覆すような態度を取るようになった経緯について、韓国の民主化市民社会の発展、経済力の向上が韓国の人々の心情に変化を与えたという点から論じた。

特に根本的な要因として、民主化前後の韓国が韓国の人々にとっては戦前戦後の日本、もしくは明治維新前後の日本くらい違うものであること、日韓基本条約がその内容を韓国民に秘匿した状態で結ばれたものであったこと、そして日本の政府要人が歴史修正的言動を繰り返してきたことを挙げた。

日本から見ると日韓基本条約を違えるかのような態度に見える韓国だが、実際のところ請求協定含めて条約改正の意思は示していない。

行政が請求権を否定してきたのに司法が一部の個人賠償請求権は消滅していないという決定を下したのは、韓国の三権分立が日本以上に強く機能しているためだが、その司法も認めているのは人道問題に関わる一部分にすぎない。

法解釈によって国民の新たな要求に答えようとする司法に対して、韓国政府は日本との関係は現状を維持しつつ司法の決定を受けて日本と共同で解決策を模索しようとしていたのだが、日本政府は韓国が態度を覆し、約束を違えたと捉えた。

しかし、国家体制が変わるとともに条約など、国家間の取り決めを改正するのは珍しいことではない。

例えば国家間の債務について、Odious debt(汚い負債)という考え方がある。

旧植民地における旧宗主国発展途上国独裁政権下で独裁者が作った借金に対して、体制が変わった後の新政府とその国民が返済義務を負うべきなのかを問うコンセプトだ。

国民の意思が反映されない政府が作った国民に対する利益も定かでない負債を、新政府とその国民に求めるのはフェアではないとの考えに基づく理論である。

体制が変わるとともに新政府が国民に不利益となる債務の返済額や返済方法、不平等条約の改正などの交渉を行うのは、新政府が国民に負う義務であると考えることもできる。

国によっては大統領が交代したことをもって、一方的に債務をデフォルトするようなケースもあるが、これは国際法上の慣習を大きく逸脱していると見なされるだろう。

また、一時のナショナリズムにかられて国交に関わる条約を破棄して窮地に陥った国もある。

戦後の日本と韓国の場合、独裁政権側だった韓国が一方的に不利益な負債を負っているわけではなく、日本から提供された補償金や円借款は確かに韓国の発展に貢献したのでOdious debtの理論は当てはまらない。

だが条約によって明らかに不利益を被っている人たちがおり、しかもこの条約が独裁政権によって国民に内容が秘匿された状態で結ばれたという点を考慮すれば、韓国政府は体制転換とともに条約改正の道を模索すべきだった。

日本もそこで対応していれば、歴史問題についてここまで両国がこじれることもなかっただろう。

日韓両国の戦後レジーム
ではなぜ韓国は植民地支配について大きな禍根を残すこととなった日韓基本条約民主化後もそのまま維持してきたのだろうか。

それは、長らく日韓両国が戦後レジームに縛られてきたからだ。

第2次安倍内閣発足当初、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を主張していた。

彼の言う「戦後レジーム」とは日本が侵略したアジア諸国、とりわけ中韓に謝り続け、先制攻撃を含む戦争を禁じる憲法9条の存在という二点に尽きる。

だが日本の戦後レジームとは本来、敗戦後にCIAの援助を受けた岸信介をはじめ、米国の援助の下で自民党という米国の傀儡政権が冷戦構造の下ほぼ一貫して権力を掌握し続けてきたことだ。

現在も、元A級戦犯であり、戦後は国をアメリカに売り渡したとも言える岸信介の孫が世襲よろしく政権を取っている。

しかも、せっかく明治以降、米国との不平等条約を改正し、戦後結んだ新条約では両国関係は対等になったのに、安保体制の下に実質的不平等条約を結んでしまった。

こうした状態こそ日本の戦後レジームが現在も続いていることを示している。

同様に、解放後の韓国では米国の支援を受けた李承晩大統領が誕生し、朝鮮戦争後も冷戦構造の下、ますます米国の影響が強まった。

日韓の国交回復自体、米国の仲介無しにはなしえなかった。

軍事独裁の朴正煕政権下で日韓国交回復による「65年体制」という日米韓の連携という米国主導の安保体制が成立し、それを維持することは冷戦下の日本と韓国にとって国防上の至上命題となった。

米国の傀儡政権であり続けた自民党の日本は勿論、韓国の軍事独裁政権も民主化後の政権も、長らく米国に逆らうことは無かった。

だからこそ日韓基本条約も何も手を加えられることなく維持され続けたのである。

今さら条約を改正することは考えにくいが、法解釈を変えてきたことは韓国の対外政策の変化でもある。

韓国政府は、90年代になって明らかになった朝鮮戦争時の米軍による韓国人虐殺事件や戦後の民間人殺傷事件に対して正義を求める国民の声の高まりに対応し、米国と根強く交渉し続けてきた。

元々は日米地位協定よりも不利だった韓米地位協定も、今では在留米軍の犯罪に対して日本政府よりも韓国政府の方が強い立場にある。

日本では「韓国人は反日だ」と捉えられているが、韓国の人々は日本だけでなく米国に対しても、また自国政府に対しても、必要とあれば厳しい目を向けてきた。

日本が数十年間も安保体制による不平等な日米関係に囚われている間、韓米関係は徐々に変化していったのである。

韓国のGSOMIA終了は日本に対する報復としてだけでなく、米軍基地に対する負担増を毎年要求するトランプ政権に対する応酬でもあると見るべきだ。

韓国が国防を米国に頼り切る体制を脱し自主外交の道を模索しようとしているのは明らかだが、こうした傾向は左派あるいはリベラル政権の時に特に如実に現れる。

右派保守政権だった朴槿恵政権下で締結されたGSOMIAを数年もせずに破棄すれば、米国の困惑と怒りは必至だが、文政権は日本への対抗処置としてそれをあっさりと決定した。

もはや米国でさえ韓国を押さえつけることはできなくなっているのは、東アジアにおける米国の影響力の低下を如実に表している。

また、韓国の左派にとって日米韓の連携による安全保障は、日本と米国が考えているほどには高い重要性を持っていないということも今回の決定を後押ししたと考えられる。

二週間前の調査では、韓国人の48%が政府にGSOMIA終了を支持している。(ハンギョレ新聞:http://m.hani.co.kr/arti/politics/assembly/904841.html#cb(韓国語))

政治制度としての民主主義の限界
残念なことに、選挙も政治も、国益や国民の実益のためだけに機能するシステムではない。

政治制度としての民主主義の限界とも言えるが、国民はしばしば自己の利益よりもイデオロギーに投票し、自己の利益や国益を損なう政治家を当選させてしまう。

そうして選ばれた政治家は国益や国民の利益ではなく、再選や支持率のための分かりやすいシンボル的行動で人気取りを図る。

日本政府は「歴史戦」の報復として安全保障上の「信頼」を理由に貿易戦争を始めるという、国際的に見ても前例の無い行動を取った。

「歴史戦」を安全保障と貿易の問題に持ち込んだことで、韓国の信頼を失い、日米韓の連携という安全保障体制の土台を揺るがした上に、韓国に歴史問題での徹底抗戦を決意させてしまった。

一方の韓国はGSOMIA終了に際して、韓米関係の一層の強化と米軍基地の負担増に言及しているが、それは国民に負担増を強いる決定だ。

歴史問題で日本と戦い続けるために国民に負担増を強いるのは本末転倒だが、今回の決定は韓国政府が国益よりもシンボリックな対日関係での強硬姿勢を取り続けることを重視していることを意味する。

日韓両国ともに政治制度としての民主主義の限界に直面しているのは明らかだ。

だが、韓国の今回の行動によって米国は日韓の歴史問題と貿易戦争の問題に仲介せざるを得なくなった。

韓国は米国を利用することで問題解決を図ろうとしている。

前回からの繰り返しになるが、米国も含め国際世論は日本の歴史戦に批判的だ。

歴史問題で米国が日本の肩を持つことはまずない。

米国が介入してくれば、日本は貿易による歴史戦を中断せざるを得なくなり、面子を失う。

これまで米国の言うことにはなんでも従ってきた自民党政権が、この問題でだけ米国の圧力と戦うとは思えない。

韓国では政府の歴史問題をめぐる対応に対して世論が分かれ、メディアでも政府に批判的な意見が少なくないのに対し、日本では政府に対する批判的論調が弱く、また少ない。

日本のメディアは日本が貿易を安全保証の問題にすり替えて「歴史戦」を貿易に持ち込み、日米韓の連携という安全保障体制を危機に陥れた責任をしっかりと問うべきである。

 

経済社会学、グローバリゼーション論を軸に、社会階層、ジェンダー、職業教育、労働市場問題、移民政策の研究に従事。東京大学大学院総合文化研究科で東アジア外交史、朝鮮近代史を専攻したのち、ビジネスコーチとして勤務。2011年に渡米し、メリーランド大学公共政策大学院で社会政策、教育政策を修め、ジョージメイソン大学社会学研究科博士課程に在学中。

日銀、9月追加緩和策(8月14日株式新聞記事)および<h-tomiyama>短評

 米中貿易摩擦のこじれと円高の動きを背景に、次回9月18日・19日の金融政策決定会議における日銀の一手に注目が集まっている。一部で浮上しているマイナス金利深堀りなどの追加緩和観測をめぐって、相場が乱高下する可能性がある。一方、今月22~24日には米ワイオミング州ジャクソンホールで、主要国の中央銀行幹部らが集まる経済政策の討議が行われる。
 トランプ大統領が中国との貿易交渉に「合意する準備ができていない」と発言し、9月上旬に予定されている米中閣僚級協議の中止を示唆したことを受けて、落ち着きを取り戻しつつあったドル・円相場が再び急落した。13日には一時1ドル=105円割れ寸前までドル安・円高が進んだことで、日経平均が前週比315円値下がりする場面があった。
 こうした中、市場では日銀が9月にも、マイナス0.1%に定めている現行の短期金利政策をマイナス0.2%に引き下げるほか、TOPIX型ETF買い入れ額を1兆円程度増やし、保有残高の増加ペースを従来の年6兆円から7兆円に上積みするといった追加緩和策に踏み切るという外資系証券会社の予測が話題になっている。
 9月の日銀会合は、米国のFOMC(17、18日)の直後に決するタイミングで開催される。このため、日銀は追加利下げが予想されるFOMCの結果を見て動ける。また、国内では10月に消費税率の引き上げが控え、「予防的」な追加緩和にも舵を切りやすいというわけだ。(中略)
 ポイントは、9月FOMCでの下げ幅だ。前回、市場の意に反してタカ派的な見解を述べたパウエルFRB議長だが、その後の米中摩擦の激化を踏まえると利下げを継続せざるをえない状況とみられる。仮に前回と同様の0.25%の利下げでは日銀は動かないかもしれない。だが、0.5%という大幅な引き下げがあればどうだろう。
 ジャクソンホールの討議は、そうしたFRBの出方を測る上で重要となる。出席・講演する可能性のあるパウエル議長が再びハト派的なスタンスを打ち出せば、市場の見方は一気に9月FOMCでの0.5%利下げに傾く公算が大きい。そうなると、急激な円高を防ぐ必要性からも、日銀の追加緩和観測が一段と膨らみそうだ。

 〈h-tomiyama〉の短評
 日銀による、これ以上の追加緩和策は、日本の金融市場環境に大きな弊害をもたらす可能性がある。現状でさえ、地銀の経営状態は悪化に歯止めがかからない中、マイナス金利深堀りは更に深刻な事態を招く引き金になりかねない。ETF買い増しも、〈危険な道〉だと思う。東証1部の時価総額は8月13日現在で約560兆円、浮動株式30%と見積もって、流動株式の時価総額は約170兆円だ。日銀のETF資産は30兆円に迫る。すでに危険水域を超えている。加えて、年金機構のETF・株式購入、上場企業の自社株買いによって、流動性が損なわれる状況で、日銀のETF買い増し策が実施された場合、市場の歪みが更に進行してしまう。日銀は、目先の状況に右往左往せず、日本経済の将来に責任を持つ姿勢を堅持するべきだと思う。

新書のご案内(続き)・・・『キャベツ畑のスピリチュアル』

〈児童文学作家 今関信子さんの後書き転載〉 

 

この本を読んでくださったみなさんへ

あなたには、お友だちがいますか。目が輝きましたね。仲良くしているお友だちの顔が、心にはっきり浮かんでいるのですね。

幼なじみ、おうちが近所のお友だち、いとこどうし、新しいクラスになってお友だちになった子、失敗を励ましてくれた時からのお友だち、おそろいの洋服を着て遊ぶ子、暑がりと寒がりなのに仲良し、いろいろなお友だちがいますね。

この作品の主人公風花のクラスに、転校してきた神崎晴矢くんを、あなたはどう思いましたか。2学期に来て3学期にはいなくなりましたから、たった半年間のクラスメートです。

ある日、登校時間に来ない神崎くんを迎えに行って、風花は迷子になってしまいました。始業時間に間に合うようにと、冬キャベツの畑を夢中で走った2人。校舎の裏で神崎くんが打ち明けたおうちの事情は、神崎くんの秘める不思議な力を告白することになりました。風花だけに知らされた神崎くんの秘密。風花もお母さんにも話していない秘密を打ち明けて、 2人は時間を超えたイメージの世界で遊ぶことになりました。

風花は、突然いなくなった神崎くんの行方を思い描いています。短い時間だったのに、 一番大切な友だちとなって、風花の記憶に残った神崎くん。風花の心にタッチした不思議な男の子は、あなたの心にも何かを残したでしょうか。

この物語の作者、上田英津子さんは、ちょっとおしゃれで、ちょっと不思議な雰囲気を持つ作品をたくさん書いていました。今は、重い病気と闘っていて、自由に作品が書けませんが、カウンセラーの先生に助けられて文字盤で作品を書いています。私は、創作が好きな英津子さんとお友達です。だから、以前に書いた作品も、一文字一文字拾って書いている今の作品も読んでいただけたらと願っています。作品を通して、作者とあなたがお友達になれたら、どんなに嬉しいでしょう。

新書のご案内・・・『キャベツ畑のスピリチュアル』

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上田英津子さん


 酷暑の中、清涼で不思議な気持ちにさせられる児童図書をご紹介します。(9月15日発行予定)

 実話のようなスピリチュアルな物語です。

 辻褄が合っていて、読んでいてとてもスッキリする構成なので、さっと読んでしまうのが勿体ないくらいですが、余韻に浸れる不思議な魅力があります。

 小さくてメルヘンチックな装丁ですので、是非お手に取ってみて下さい。

 ☆ikoko☆

大船渡「32歳監督」は壊れていた!(週刊新潮8月8日号記事)

以下、阿修羅掲示板よりご覧ください。

 http://www.asyura2.com/09/news8/msg/1145.html

 上の記事を読んで、高野連の問題先送り体質、指導者・関係者の事なかれ主義を知り、暗い気分になった。これは高校野球だけの問題ではないだろう。『平成経済 衰退の本質』において、金子勝氏が日本の政治・経済の劣化と衰退の主因を分析する論調と通底することを感じたからだ。「スポーツの隆盛・衰退は国力を映す鏡だ」と改めて思う。8月読書会では、そこらあたりの問題を幅広い視点から考えてみたい。(h-tomiyama)

 

 

ジム・ロジャーズ「円はもう安全資産ではない」(7月31日東洋経済ONLINEから転載)

 NHKのニュースなどで、海外で何らかの政治的・経済的事象が発生して外国為替相場が円高に振れたとき、まるで枕詞のように「安全とされている円が買われた」という毎度お馴染みのことばが発せられる。東洋経済ONLINE7月31日にて、著名な投資家であるジム・ロジャーズの以下のとおり警告している。(h-tomiyama)

日本人は甘すぎる!

日本では「老後資金2000万円不足問題」が連日メディアをにぎわせました。しかし、ジム・ロジャーズ氏は「年金を当てにしている人は甘い」と言います。いつまでも円だけにしがみついていてはリスクがある、ということです。

「日本人にとって、日本国外に投資をすることは極めて重要だ。日本国内にほとんどの資金を保有している日本人は、早急に資金を海外に移すことを考えたほうがいいだろう。日本で貯めてきた貯金と政府からの年金を老後資金の当てにしている人は、甘いと言わざるをえない。日本政府が今後も紙幣を刷り続けるのであれば、日本円の価値は相対的に落ちるからだ。

年金も、額面として受給できたとしても、その価値は保証されたものではない。日本人は、財政破綻した旧ソ連による年金が、急速なインフレに伴いほとんどの価値を失ったことを思い出すべきだろう」

と言います。ロジャーズ氏はこう続けます。

「もし日本で自宅を購入しているのであれば、売却をして海外に移住するか、資金を移すことを私は勧めたい。しかし、昔の考え方で凝り固まった日本人には難しいかもしれない。日本の一般の人々が危機を感じるには、まだしばらく時間がかかるだろうから、私の意見が極端に思える日本人もいるはずだ。

そうであれば、まずは日本で今の仕事を続けながら、他の国を訪れてみることから始めてはどうだろうか。例えば日系人の多いブラジルのような国に。現段階では、日本円はブラジルレアルに比較して高いから、日本人はブラジルで豊かに過ごすことができる」