MMT(現代金融理論)を考える
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2019年08月31日 小笠原誠治の経済ニュースゼミ

 

 MMTというのが流行っているというか、関心を集めているというか…
 どう思います?
 わたしゃ、この手の理論というのが大嫌い!
 バカバカしいったらありゃしない。
 でも、結構MMTに魅かれる人たちがいるようなのです。
 じゃあ、何故MMTを支持する人がいるのか?
 難しい理論をちゃんと理解しているのか?
 そんなことはないのです。

 MMTを支持する人々は、それによって財政出動が可能になり、従って、それによって貧しい人々の暮らしが向上するのではないかと期待するからなのです。
 財政再建を重視すると、常に支出には厳しい制約がかかってしまう。
 しかし、財政破綻などあり得ない、或いは、どれだけ財政出動をしてもインフレが起きないとなれば、何故財政出動をしないのか、となる。
 そういうことなのです。

 では、財政破綻は本当に起きないのか?
 そう簡単に財政破綻が起きるとは思われませんが、絶対に起きないとも言えないのは事実です。
 自国通貨を発行している国では、政府がどれだけでもお札を刷ることができるので、財政破綻しないと言っていますが…
 確かにどれだけでもお札を刷ることができるでしょうが…
 その受け取りを国民が拒否すれば…いや、国民がそれを受け取ったとしても、お札を刷れば刷るほど価値が落ちるのは当然。つまり、インフレになる、と。
 そうすると、財政破綻したも同然。
 それでも財政破綻はしていないというのは、年金の支給額が月に10円になっても年金制度は破綻してないと主張するのと同じ。
 しかし、実際にはなかなかインフレが起きないので、ひょっとしたらインフレはもはや起きないと思いたいのかもしれません。
 そして、インフレが起きないのであれば、どれだけお札を刷っても構わないではないか、との結論に至る、と。
 そういうことなのです。
 しかし、インフレが起きないとは誰も断言できないのです。
 というか、年金の支給額を倍増し、そして、予算は大盤振る舞い、消費税も所得税法人税も大幅に減税するようなことにすれば、流石にインフレは起きるでしょう。だって、働かなくても幾らでも年金がもらえ、しかも、その額がどーんと増える訳ですから、真面目に働く人が少なくなり、人々が生産するモノやサービスが急減してしまうからです。
 ところで、先進国の人々は大切なことに気が付いていません。というか、自分たちにとって不都合な事実は見て見ぬ振りをしたい、と。
 アメリカでトランプの人気が出た理由は、仕事を失ったような労働者たちに甘い言葉を投げかけたからです。米国の労働者が失業に追い込まれたのは、メキシコからやってきた不法移民のせいだ。そして、米国に輸出攻勢をかける中国のせいだ、と。
 日本でも、失われた10年とか20年と言われた時代を経験してきました。賃金が上がらないどころか下がってしまった、と。
 そうした不満を代弁するかのように、アベシンゾウがインフレ目標を日銀に掲げさせ、リフレ政策を実行した訳なのです。
 しかし、ご承知のようにリフレ政策は失敗。賃金は相変わらずなかなか上がらない、と。

 しかし、では、何故賃金がなかなか上がらないのか?
 賃金が上がれば、労働者たちの消費が盛んになり、景気回復の好循環が生まれる筈だと主張する人々がいます。
 貴方もその一人?
 確かに、賃金が上がれば、景気回復の好循環が生まれるでしょう。
 しかし、実際にはなかなか上がらない。
 では、何故賃金が上がらないのか?
 経営者たちが冷徹だから?
 自民党が経営者の立場に立っているから?
 それもあるでしょうが、そこには構造問題があるのです。
 一物一価の法則をご存知だと思います。
 モノやサービスの価格は、本来であれば、一定の価格に収れんする傾向がある、と。

 実際には違いますよね?
 私が住んでいる田舎の町にあるスーパーやドラッグストアなどで買うパンやウイスキーの価格でも2割位違うことがあります。
 具体的に言えば、山崎パンのピーナッツバターのパンに、バランタインウイスキー。従って、一物一価は法則は成立しないと言えないこともない。
 しかし、そうはいっても、今言ったパンやウイスキーの価格が2倍や3倍も違うことはあり得ないでしょう。流石にそうなると、どんなにぼんやりした消費者でも価格の違いに気が付き、反応を示す筈だ、と。

 私が言いたいのは、世界の労働者の労働力に対して支払われる対価も一定の価格に収束する傾向があるということなのです。つまり、世界の労働者の賃金格差は縮小する傾向にある、と。
 貧富の差は拡大しつつも、労働者たちの賃金格差は世界的に縮小しつつある、と。ということは、かつては大変貧しかった中国の労働者も今は相当程度の生活を享受することができるようになり、逆にかつては大変豊かだった米国の労働者たちも今は安い賃金に甘んじざるを得なくなっている、と。だから、日本の労働者の賃金がなかなか上がらないのです。

 経営者の立場からすれば…或いは株主の立場からすれば、安い労働力が利用可能ならそれを利用しようということで海外進出が進み、日本の労働者の賃金には下押し圧力がかかり続けている、と。
 結局、そのことに気が付かない人々が余りにも多い!

 いや、薄々気が付いているのかもしれないが、そういった事実は見逃したい、と。
 では、どうするか?そこでMMTの登場となるのです。
 何か自分たちを救ってくれる高邁な経済学の教えが隠されているのではないか、と。しかし、MMTに頼って放漫財政に走り、本当に財政や経済が破綻したら元も子もなくなってしまいます。だから、私は、プライマリーバランスを黒字化する程度の財政再建努力が必要だと言っているのです。

 1000兆円の政府の借金を返済しろと言っている訳ではなく、その借金残高が実質的に増えない程度の努力は必要だということです。
 私の主張をお読みになって、では、どうすればいいのだ、それをお前は示していないと仰りたい方がいるかと思います。

 確かに、本稿では解決策を示していません。
 しかし、私は長い間、その答えを何度か示しています。その答えとは、日本人の、或いは日本企業の有効供給能力を上げるしかない、と。
 簡単に言えば、労働力の質の向上と、企業としての競争力の向上です。
 そうすれば自ずから賃金は上がります。